医師の診断は「常に正しく、絶対」ではありません。誤診とまでは言わずとも、限られた診断時間や不完全な検査データの影響で、正しい診断に至らない事は決して珍しくないのです。それが交通事故外傷の世界、特に高次脳機能障害では頻発するのです。誰かが気付かなければならない、具体的に動かなければならない・・だからこそ、私達メディカルコーディネーターの仕事が生まれたものと思います。

 医師の診断より私の見立てが正しいことが起きます。これは決して自らの能力を驕っているわけではありません。障害に対するアプローチが医師とは違うということです。医師は後遺症なく治すのが仕事で、元気になった患者への興味を無くします。対して私達は障害を見逃さないよう、常に綿密な観察を行っています。寝ても覚めても後遺障害、日夜、鋭敏な感覚を養っているのです。
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7級4号:高次脳機能障害(70代男性・神奈川県)

【事案】

原付バイクで直進中、後方よりの右折自動車に巻き込まれ、脳挫傷、頚椎捻挫の診断となった。
幸い回復は良く、比較的早く日常生活に復帰した。しかし、家族の観察では事故前に比べ、忘れっぽい、要領が悪くなった、怒りやすくなった等があった。

【問題点】

最大の問題は主治医が「高次脳機能障害はない」(痴呆のせい?)と診断していたことである。さらに、相手の任意保険会社も医療調査で同様の回答を得ていた。このような状態で弁護士からヘルプの要請を頂いた。確かに一見、障害の有無はわからないが、主治医が否定しようと、私の見立てでは高次脳機能障害なのです。

家族にしかわからない微妙な変化を立証しなければならない。そして、主治医の診断を覆さなければ明日はない。しかし、高次脳機能障害が評価できる病院は限られている。まして高齢者の受入れには絶望的に厳しい。

【立証ポイント】

まず、在住県のリハビリ病院に検査を打診も、拒否された。そこで国立病院に誘致、入院での高次脳評価へ進めた。検査の結果から家族の訴えを裏付ける所見が明らかとなった。ようやく専門医の確定診断を得て、診断書を記載頂いた。

これで勝利とならないのが交通事故外傷の立証である。いくら他院で診断されても、受傷時から診ている主治医が否定すれば、審査側も認定を躊躇する。そこで、新しく取得した検査データ、診断書類を主治医に引き継ぐ面談を行った。そこで主治医の顔を潰さないよう、慎重かつ丁寧な説明で障害の存在を認識して頂いた。また、調査事務所から主治医宛の医療照会を予想、その回答書の記載にも再度、主治医と面談した。再び高次脳を否定する回答を書かれたら大変なのです。この辺の配慮はメディカルコーディネーターの技量と機動力、そして熱意が発揮されるところ。

これらの対応は障害診断を不正に誘導しているわけではありません。正しい等級が認定されない現実に、積極的・強引な対応をせざるをえなかったのです。主治医とて24時間患者を観察しているわけではありません。軽度の高次脳機能障害、まして高齢者となると正確な診断は難しいのです。