本件を担当したことにより、高次脳機能障害では全世代(幼児から80代までの各年代)の被害者の経験を積みました。
壮年、就労者の障害は「仕事への影響」によって症状が客観的になるので、比較的、立証は容易です。しかし、退職後の高齢者は加齢による能力低下、認知症の影響、既往症等を事故外傷による障害と切り分けることがポイントとなります。このように”年齢によって”立証が困難なケースがあります。現在も高齢者案件を数件お預かりしています。
しかし、本件は幼児の高次脳機能障害です。つまり、将来の障害について成長過程の中から予想しなければなりません。それでは、未知の領域へ挑戦・奮闘の記録をご覧下さい。
併合1級:高次脳機能障害・外貌醜状痕(幼児・埼玉県)
【事案】
高速道路で先頭車の急停止に伴い、後続5台の連続衝突。4台目に搭乗中の被害者はその衝撃で頭部をダッシュボードに強打、閉鎖性外傷性脳内血腫、頭部が潰れて深刻な脳内出血を起こした。救急搬送され、緊急開頭手術した。その後、乳幼児の専門医院にヘリコプターで転院し、再度の手術を受けた。
奇跡的に命を取り留めたが、成長に伴い発達障害の兆候を示す。特に語彙の習熟に遅れが顕著であり、コミュニケーション能力にも問題がみられた。また、主治医から小学校進学を前に学習障害の懸念を指摘された。
【問題点】
未就学児であるため、学習障害は将来への懸念であり、高次脳機能障害はあくまで予想に過ぎない。また、精神障害、情動障害、社会適応能力なども成長の過程を見なければ評価できないことも多い。幼児の脳障害、それに伴う精神障害の程度を測るには進学後、数年を経た段階で観察する必要がある。しかし、幼児の脳障害を専門とする主治医は「数年を経たとしても後天的な病気が合併する可能性も排除できず・・・やはり、不正確な判断となる」との見識を示した。最新の臨床研究を踏まえ、高次脳機能傷害を現時点で評価することに決断した。
こうして 前代未聞とまでは言わずとも、極めて少数例である未就学児の高次脳機能障害の立証・申請に及んだ。すべてが未知の経験、2年間、家族とともに手探りの立証作業を進めた。
【立証ポイント】
家族、主治医と実施可能な検査を計画、限られた神経心理学検査は以下の通り。
・ 知能検査: 田中ビネー 、 wppsi 、 2年後に wisc → 解説
・ 発達検査: 遠城式乳幼児分析的発達検査 、 新版K式発達検査 、 DENVERⅡ
・ 視覚発達: フロスティッグ視知覚発達検査
※ 赤字は秋葉からの依頼で追加実施。
客観的なデータが不足する中、満を持してビデオを導入、3回の撮影を通して、映像による観察を加えた。
後は基本通り、事故前後の保育園の先生から幼児用「生活状況報告書」を記載いただき、別紙10ページを添付した日常生活状況報告書を精密に作成する。
醜状痕は頭蓋骨を着脱したこともあり、左額部~側頭部が隆起、瘢痕の対象となっていた。当然、面接に備えて写真も備えた。それでも、面接の呼び出し前に醜状痕の大きさの計測依頼や不足する画像の追加依頼があるなど、どうも慎重、結論を先延ばしするような調査事務所の対応が続いた。
結果は・・提出8ヵ月後に、結論「再調査をお願いします」、理由は「現在提出の書類のみでは判断困難なことから・・・」との保留回答。
そして、初診の病院で提出済みの「頭部外傷後の意識障害についての所見」を再度、転院先の病院でも要求。また、最新のMRIの撮影も要求。それらすべてに丁寧に対応を続けた。調査事務所の専門機関である高次脳審査会は、あたかも1年後の症状を待ったかのよう。
14ヶ月の審査期間を経て高次脳は3級3号、頭部瘢痕は7級12号、併合1級の認定となった。
現状から望みうる最高等級の評価を導いた。前例のない申請に奮闘2年4ヶ月、対して審査側も未知の審査に大変苦慮したようです。