続いて上肢の重症例を。
骨の癒合が悪く、痛みから動かさず安静を長く続けた結果、関節が廃用性症候群となって可動域が回復しない・・このような悪循環をよく目にします。これは高齢者に多く、ケガの割に障害が重くなってしまうことがあります。一般にはリハビリをサボった廃用性症候群による関節可動域制限は厳しく見られます。やはり被害者には回復努力が求められます。リハビリが辛くとも甘えは許されません。しかし、本例はその逆のケース。この被害者の回復努力は称賛に値します。しかし、並外れた努力の結果、低い等級=低い賠償金になってしまう・・これは理不尽と思います。回復には個人差があります。そして何事も頃合いが大事、タイミングを逃してはなりません。
併合9級:鎖骨・肩甲骨骨折(30代男性・埼玉県)
【事案】
バイクで直進中、後方より追い越ししてきた自動車が急に左折したため接触、転倒したもの。その際、右の鎖骨・肩甲骨・肋骨・橈骨・尺骨を骨折した。
【問題点】
この被害者は若く体力十分、元々頑強な体で仕事も医療関係から知識も十分、そしてリハビリもアスリートのような根性で・・・結果、驚異的な回復をみせる。相談会に参加された時に「骨癒合を待ち、なるべく早期に症状固定する」方針とした。もちろん「できるだけ治す」ことが最大目標である。しかし、一定の障害が残ることが確実なケガながら、中途半端な回復で等級を取りこぼすことを懸念したからである。
【立証ポイント】
砕けた鎖骨、ぱっくり横断骨折した肩甲骨の画像をしっかり撮って提出すること、後は可動域の計測を間違いなく記録することに尽きる。主治医はもちろん理学療法士と打合せしを済まし、受傷から7か月後に症状固定、診断書を作成した。
結果、可動域は文句なしの10級、これに鎖骨と肩甲骨の双方の変形12級5号が併合された。これは写真を添付すれば一目瞭然。
普通の人なら1年間は症状固定できない受傷様態である。しかし回復力の差や体力差を考慮し、適切な時期に症状固定する必要がある。