さて、昨日の試算から軽傷案件は費用倒れすれすれであることがわかりました。「弁護士先生、なんとか報酬20万円以下でお願いします!」の状態です。方々の交通事故相談に出向きましたが、なかなか引き受けてくれる先生が見つかりません。どうしましょうか?
 

保険会社マターとするか弁護士マターとするか

 以上から軽傷案件の場合、保険会社と争わずに速やかな解決を目指すなら、慰謝料は少ないですが直接交渉でも良いような気がします。このような案件を私は「保険会社マター」と呼んでいます。

c_y_79 保険会社は支払額が自賠責保険以内なら自腹が痛みませんので、提示に対して印鑑を押すだけで解決が可能です。保険会社は3か月程度の捻挫・打撲では常に自賠責保険の範囲での解決を目指しています。治療費や休業損害で交渉余地が少なく、経済的利益がわずかしか見込めないなら、妥協的な解決でも仕方ありません。実際、ほとんどの軽傷事案は保険会社マターで解決しています。

 しかし感情的になってしまい、保険会社と上手く交渉できない被害者や弁護士の交渉で増額が見込める余地が相当にあれば、弁護士に依頼することも一考です。問題は引き受けてくれる弁護士をみつけることででしょうか。
 

そうだ、弁護士費用特約があるじゃないか

 弁護士費用特約(以下 弁特)に加入している被害者であれば、弁護士への報酬は保険で賄えます。試算ではおよそ20万円前後に損得の判断がかかっていますが、その心配はなくなります。
 
 弁護士事務所の多くが弁護士費用特約がある場合、旧日弁連基準とほぼ同じ報酬体系を打ち出しています。仮に弁特社(自身が弁特に加入している保険会社)に20万円の増額に対して、その基準で報酬を計算しますと・・・

(計算)
着手金  8%
成功報酬 16%

合計 200000円×(8%+16%)=48000円+消費税8%=51840円 となります。
 

 少なすぎますね。交渉の手間を考えれば費用倒れしない範囲での金額、やはり20万円程度が妥当と思います。

 ところが20万円程度の増額の案件に対しても30万円以上の請求を続けた法人事務所がありました。この事務所はすっかり保険会社から嫌われました。通常、費用倒れの案件です。普通なら引き受けません。しかし「弁特社が払うからいいじゃん」、このような受任姿勢は倫理的に問題があると思います。

 弁特があれば確かに弁護士に委任しやすくはなります。しかし軽傷事案も当然に倫理的な相場を考慮する必要があります。増額の見込みが些少な案件は引き受けづらいことに変わりはないと思います。
 

紛争センターの斡旋を利用

 自力直接交渉、弁護士委任ではない第3の方法も残されています。それは財団法人 交通事故紛争センターの利用です。ここは無料で被害者vs保険会社の示談交渉の調停・斡旋をしてくれます。およそ3~4回センターに出向き、担当弁護士の斡旋案を受けます。軽傷案件の場合、通院慰謝料なら赤本程度までは取れます。しかし治療の延長など医学的な判断は困難なので、この場で治療の延長を主張されるのは困るようです。さらに休業損害の証明などは書面主義が徹底されていることから、申告書以外の主張はなかなか取り合ってくれません。

 ここでは慰謝料152000円の増額の効果のみを期待すべきでしょう。あとは3~4回、平日仕事を休んで出向くこと、交通費、自分で書類をそろえる手間、自力交渉のエネルギーと152000円を天秤にかけて下さい。

 

 最後に繰り返しますが、

 休業損害で過少申告しながら「実際の収入額をなんとか取って!」と委任した弁護士に頼んでも限界があることを承知しなければなりません。実態の収入額の立証は大変な手間と場合によっては税理士への費用が掛かるのです。これを強く希望すれば20万円程度の報酬ではほとんどの弁護士が降りてしまいます。倫理上からも弁護士がこの交渉には難色を示します。
 また、紛争センターの斡旋で請求しても前述の通り望みは薄く、斡旋弁護士の心象すら害します。強い主張はやめといた方が無難です。

 
 このように検討を重ねた結果、やはり軽傷は保険会社マターなのかな・・と思ってしまうのです。