先日のプラトー骨折で膝関節の可動域制限が用廃レベル(8級=15°までしか曲がらない、もしくは健側(ケガをしていない方)に比べて10分の一以下しか曲がらない)の被害者さんを対応しました。骨折部は手術でプレート固定とし、リハビリを続けていました。幸い癒合状態も良く、9か月後に抜釘(金属を抜く)をし、症状固定を迎えました。しかし関節の可動域はある時期から回復せず、関節硬縮を起しています。
部位 |
主要運動 |
||
膝関節 |
屈曲 |
伸展 |
合計 |
正常値 |
130 ° |
0 ° |
130 ° |
8 級 7 号 |
15 ° |
0 ° |
15 ° |
10 級 11 号 |
65 ° |
0 ° |
65 ° |
12 級 7 号 |
100 ° |
0 ° |
100 ° |
さて、このまま後遺障害の審査で、8級が認められるでしょうか。XP(レントゲン)画像をみたところ、変形や転位が見当たりません。MRI検査を行い、4つ靭帯(前十字・後十字・左右側副靭帯)と半月板の損傷を探しましたが、明らかな損傷はありません。骨折だけではなく、これら周辺部の損傷、いわゆる複合損傷であればある程度の説明は可能です。しかし本件の場合、何故これほど曲がらなくなってしまったのでしょうか?理由は以下2つが考えられます。
1、リハビリをサボった
2、演技
可動域制限を大袈裟に装う2の演技はバレます。なぜなら調査事務所は受傷時および症状固定時の画像を確認し、「こんなに曲がらなくなるはずはない!」と判断します。そして医療照会をかけて、リハビリ中の可動域数値など、理学療法士さんの記録を確認するからです。
問題提起したいのは1のリハビリ不足です。患者の最大の務めは当然ですが回復を図ることです。初期は痛みからなかなかリハビリが進まないものです。しかし頑張って動かさないと曲がらなくなってしまうことは、医師や理学療法士からきつく指導を受けているはずです。そのままにすれば関節部は硬縮を起し、廃用性症候群が待っています。これを自賠責調査事務所は厳しい目で見ています。「リハビリをサボった場合の可動域制限(廃用性症候群)は交通事故・後遺障害ではない」と考えています。
確かに同意できる考えですが、例外のケースもあります。高齢者や骨粗しょう症でリハビリが十分に行えなかったケースや持病の影響、特に糖尿病や関節リウマチの場合は可動域の回復に大変苦労するはずです。これらの例外ケースを一律に「サボった」とされては気の毒です。このようなケースの審査には医師・理学療法士の意見なども添えて、事情を考慮していただく努力をします。しかし多くはその後の裁判で決着をつけることになります。
やはり例外はあくまで例外です。現代では手術によるプレート・スクリュー固定とリハビリ技術で関節硬縮、廃用性症候群を過去のものとしています。
最近大河ドラマの影響で、今年1月の過去記事にアクセスが増えています。
「黒田 官兵衛と関節硬縮」