【病態】
第1中手骨基部関節内斜骨折のことです(下図左参照)。母指外転筋の牽引により骨片が近位に転位(ずれる)すると手術の適用になります。
【整復】
母指をけん引しながら外転、伸展し中手骨基部を橈側(親指側)・背部より圧迫して整復します。ベネット骨折は折れた基部が脱臼しやすい構造となっています。中手骨自体が長母外転筋の作用で外側に引っ張られ、逆に折れた基部が第2中手骨側に引っ張られるからです。このように牽引・圧迫を緩めると転位するため経皮ピンニングが必要です。経皮ピンニングとは鋼線を指に差し込んで折れた骨を固定する手術です。
【後遺障害】
A:やはり可動域制限の計測が第一です。2分の1制限で「用廃」10級7号となります。もちろん関節可動域制限の基本通り、曲がらなくなるほどの変形、転位が前提条件です。もちろん対象はMP関節です。IP関節は受傷部から離れているのでベネット骨折と関係ないはずです。その場合は他の理由を追究しなければなりません。
B:可動域に制限なく痛み等が残れば、14級9号を抑えます。変形の12級相当や神経症状の12級13号は画像次第、相当の転位・変形がなければダメです。
部位 |
MP 関節主要運動 |
IP 関節主要運動 |
他の主要運動 |
||||||
親指 |
屈曲 |
伸展 |
合計 |
屈曲 |
伸展 |
合計 |
橈外転 |
掌外転 |
合計 |
正常値 |
60 ° |
10 ° |
70 ° |
80 ° |
10 ° |
90 ° |
60 ° |
90 ° |
150 ° |
用廃 |
30 ° |
5 ° |
35 ° |
40 ° |
5 ° |
45 ° |
30 ° |
45 ° |
75 ° |
★ 最近も経皮ピンニングにより、転位なく整復された被害者の案件を受任しました。わずかながら変形癒合が確認でき、可動域制限もあります。CT、MRI検査を追加し、可動域も上記の項目を余さず正確に計測します。微妙な回復をみせる障害はちょっとやっかい、丁寧に立証する必要があります。