8回にわたって続きましたシリーズも今日で一応の完結です。高次脳機能障害は患者ごとに微妙に症状・程度が違うため、完全な分類は困難です。しかしこのシリーズにて典型的な症状をチェックをすることで、等級申請を視野に入れた障害の全容を逃さず把握することができると思います。
何か異常があっても回復の期待から家族は過小評価しがちです。そして微妙な症状は医師でさえ見逃します。したがって相談を受ける弁護士は言わば最後の砦です。絶対に見逃さないで下さい!
最後は四肢の「脳性麻痺」について。本記事は出張中の札幌にて作成しています。
6、麻痺
☐ 車イス、杖、装具の使用状況は?
☐ 片側の足や手をよくぶつける。片側の腕や足にキズ・痣が絶ええない
☐ 火傷をする。お風呂に入る際、手や足の左右で感じる温度が違う
☐ 自力で排便・排尿ができない。尿漏れや逆におしっこがでない
車イスや装具の使用状態から、左右の上肢、下肢の運動麻痺(動かない)をチェックします。さらに細かく肩・肘・手首・指、股関節・膝・足首・足指のどの関節が動かないか、麻痺の程度「完全に動かない~やや動く」、「硬直して動かない、または力が入らない」も把握します。
また麻痺は触覚の低下、逆に過敏もあります。右腕の触覚が低下したため、よくぶつけ、痣が絶えない被害者がいました。温冷感の低下も困った症状です。熱湯に触ってもすぐ手を引込めないため、常に火傷の危険性があるからです。
排泄やED障害については本人から言いづらいものです。これは少し時間をおいてから確認すべきでしょう。
この機に麻痺を整理しましょう。
麻痺する部位 |
病変部位 |
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単麻痺
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上下肢のうち一肢だけに麻痺がある場合。 | 大脳半球とくに皮質 |
片麻痺
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身体の同側の上下肢に麻痺がある場合 | 大脳半球、内包 |
対麻痺
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両上肢もしくは両下肢の麻痺 | 脊髄(胸髄、腰髄) |
四肢麻痺
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両側上下肢に麻痺がある場合 | 脳幹、脊髄(頸髄)、抹消神経 |
この表で類別後、さらに程度と兆候が診断され、等級審査の判断材料になります。
完全麻痺・・・力がまったく入らない。
不完全麻痺・・・一部力が入る。
痙性麻痺(けいせいまひ)・・・麻痺筋の緊張が亢進している。
弛緩麻痺(しかんまひ)・・・麻痺筋の緊張が低下している。
運動麻痺は障害審査の重要な要素です。車イス(1~2級判断)や装具(一肢につき8、10、12級判断)の使用状況で即等級が判断できます。しかし触覚や温冷感の麻痺は見逃されやすく、また判断される等級も12級(扱い)どまりとなります。これらは他の記憶障害などに含めて判断するか、併合するかは受傷部位や程度・状態から判断されているようです。
現在公開中の映画「抱きしめたい」で北川景子さんが演じる障害者のつかささんは、交通事故で高次脳機能障害となり、左半身の完全麻痺で車イス使用を余儀なくされました。また記銘力の低下=短期記憶障害で新しいことを覚えることが苦手になってしまったようです。
映画は北海道が舞台で、実話が原作となっています。このように障害が重くてもハンデを乗り越え、結婚・出産を果たし普通に生活している被害者さんもたくさん存在しています。
最後に、障害者のみならず健常者もこの障害を知ること、より理解することが必要と思います。