昨日の話、自賠責保険の委任請求について続けたいのですが、先に請求方法について復習しましょう。

 自賠責保険の請求とは・・・自賠責保険の請求には分類すると4形態あります。申請数の多い順から説明します。教科書的な解説にならないよう、経験にもとづいた※の補足を加えています。

① 任意保険会社による一括払い後の求償

 現在およそ80%の自動車に任意保険が付保されています。多くの場合、交通事故の人身事故であれば加害者が加入している保険会社が治療費や慰謝料の話し合いや交渉を担当します。そして、示談の末、賠償金を支払うことになります。事故の解決後、あるいは途中、この任意保険会社は被害者に支払った分について、自賠責保険にこの金額を請求・回収します。入院・通院分の傷害支払限度は120万、後遺障害は4000万まで回収できます。一括払いはある意味、任意保険会社の立替え払いです。
 数回通院した程度のケガであれば任意保険会社は自賠からほぼ100%回収可能です。超えた分が任意保険会社の負担分となります。

※ 被害者に相手保険の契約があるにも関わらず、自分の自動車保険の人身傷害特約から自らの治療費や慰謝料を受け取るケースもあります。多くは事故の責任が自分にあるケースでしょうか。これも同様に人身傷害特約を支払った任意保険会社が相手の自賠責保険に求償を行います。私は勝手に「16条的一括払い」と理解しています。(本文を読み進めればわかります)

② 被害者がみずから相手の自賠責保険に請求(16条請求)

 これは被害者が加害者もしくは加害者の任意保険会社に対してではなく、直接、自賠責保険に保険金の請求を行います。通常、①の一括払いのように任意保険会社が立替え払いとしてくれるので、わざわざ被害者が手続きをする必要がないとも言えます。しかし例えば相手に任意保険がない場合、また被害者の過失が大きい、責任関係がもめていて埒が明かない、そのような理由から相手の保険会社が対応してくれない場合などの場面には必要な救済方法です。

※ この被害者請求は後遺障害が残った事故の場合に私たちが推奨するやり方です。流れは通院期間の治療費や休業補償などは①の一括払いで任意保険会社にお世話になるとして、後遺障害の審査から②の被害者請求に切り替えます。これで相手保険会社と示談せずとも、後遺障害保険金の先取りが可能です。何より保険金をあまり払いたくない、利害が相反する相手の任意保険会社の手を借りずに自ら審査書類の精査・提出ができます。

③ 加害者が被害者に支払った分を請求(15条請求)

 限定的な方法ですが、典型的なケースで説明します。加害者が任意保険に未加入で被害者のケガについて治療費や慰謝料を自らのお財布から支払ったとします。その金額について自身の自動車についている自賠責保険に請求します。条件は実際に被害者や病院に支払った領収書があることです。特に慰謝料の回収は示談が完了している、つまり示談書の提出が必要です。慰謝料の金額は、あくまで自賠責基準以下を限度に加害者が支払った金額です。

※ 立替え分の回収と言えますので①の一括払いと同じことになります。任意保険会社の自賠責への回収は15条請求となります。
 ちなみに③のケースについて私は保険代理店時代の20年で2度しか経験していません。いずれも加害者に任意保険がなく、加害者と被害者と間に入ってこの加害者請求にて解決させました。両件とも1ヵ月通院ほどの軽傷で治療費・休業損害・慰謝料の合計が120万円以下だったので、この加害者が先にお財布から払うことが可能でした。逆を言いますと大きい金額なら加害者の支払い能力が及ばず、結局多くの場合、被害者が②の被害者請求をすることになってしまいます。つまり加害者の経済的な理由(お金がない)、もしくは任意保険に入らない主義(このような人が素直に責任を認めるか?)、うっかり任意保険を切らした(だらしない)・・・このような加害者が誠意をもって自分のお財布から速やかに支払うことなど極めて稀なのです。

④ 仮渡金請求(17条請求)

 被害者が相手から治療費等支払いを受けられない場合、例えば相手に任意保険がない、被害者の責任が大きく相手の保険会社が一括払いをしてくれない等で、急ぎお金が必要なときに以下の表のとおり治療中でも一時金が請求できます。特徴は表の症状となる診断書さえあれば、領収証等がなくても支払われることです。言わば「予想払い」ですね。もちろんこの保険金は治療後の本請求で最終的な保険金から差し引かれます。

症状

金額

死亡

死亡された場合

290万円

重症1

脊椎の骨折で脊髄を損傷したと認められる症状を有するもの

左のいずれか

40万円

上腕または前腕の骨折で合併症を有するもの
大腿または下腿の骨折
内臓の破裂で腹膜炎を併発したもの
14日以上病院に入院することを要する傷害で、医師の治療を要する期間が30日以上のもの

重症2

脊柱の骨折

左のいずれか

20万円

上腕または前腕の骨折
内臓の破裂
病院に入院することを要する傷害で、医師の治療を要する期間が30日以上のもの
14日以上病院に入院することを要する傷害

軽傷

医師の治療を要する期間が11日以上要する傷害
(上記、死亡・重症を除く)

5万円

 
※ 最新の自賠責保険請求案内から抜粋しました。今までは要件=症状が抽象的でわかり辛かったのでしょうか、改定のたびに具体的な症状の記載が増えています。

 
※ あまり知られていませんが診断書、診療報酬明細書(なくてもOKの場合あり)、治療費の領収書があり、被害者の負担が明らかであれば治療中でも仮渡金請求ではなく本請求(16条請求)が可能です。私の場合、当座のお金が必要な被害者に対し、本請求か仮渡金か、どちらの金額が多いかで選択しています。