最近、既に弁護士に依頼済であるにもかかわらず、裁判の進行についての質問が寄せられています。もちろん賠償交渉は私の専門外です。しかし平素から座視できない交通事故裁判の現実について言及することがあります。それに対し、ある中堅弁護士Z先生からご意見をいただきました。そのZ先生との対話を(一部脚色が入りますが)披露します。
弁護士Z先生:「秋葉先生は80%以上の交通事故裁判が和解前提で、弁護士が戦ってくれないと言いますが、交通事故で多くの場合、判決まで争っても被害者の望む決着は難しく、裁判官も和解を強く勧めます。総合的に見て和解の方が被害者の利益となるケースが多いのでないですか?」
これは交通事故裁判の80%以上が和解となることを憂慮する私の主張への反論と思います。
秋葉:「お答えする前に、Z先生にお聞きします。先生は保険会社の顧問弁護士、もしくは協力弁護士をやっておられましたか?」
Z先生:「ええ10年やりました。ここで交通事故の実戦を積みました。交通事故の審議は長引きがちです。多くの場合、保険会社との和解がベターであると経験しました。」
秋葉:「それはある意味当然です。保険会社との交渉では全件、和解となる構造になっているからです。なぜなら保険会社の提示する賠償基準は判例と比べ、半分以下のケースが多く、勝ち負けをはっきりつけなくても、相互の歩み寄りにより、つまり和解でも被害者の得る賠償金は大幅にUPするからです。そして後遺障害の賠償金については医学的な判断が非常に難解かつ時間を要します。対して保険会社側は長年の蓄積により傷病に対して膨大なデータを持っています。それを使い顧問医の意見書としてすみやかに提出してきます。対して被害者側の弁護士は証拠=医師の意見書等の取得に苦戦し、なかなか提出してこないので審議が進みません。これを裁判官が嫌うのです。こうして和解による相互歩み寄りが推奨されるのですね。」
Z先生:「そうです。医師の協力を得ることは至難です。障害の立証は医師次第となっている現実があります。」
秋葉:「同感です。立証は医師次第です。だから私たちメディカルコーディネーターは早期から数度の医師面談を通じて、医師に対し障害の立証について協力を取り付けています。裁判に耐えうる証拠集めは何と言っても医師の診断、検査結果を引き出すことです。そして後遺障害等級の獲得がなによりの挙証となります。被害者側で医証を集めること=16条請求(被害者請求)はそのような意味もあるのです。先生は事前認定(加害者側保険会社に障害認定作業を任せる)をしていませんか?」
Z先生:「・・・・・・。しかし自賠責で認定された等級も裁判で再度検証されます。交通事故裁判はとても時間がかかります。被害者の経済的事情も考える必要から和解が良いケースもありませんか。」
秋葉:「だから16条(被害者)請求で自賠責保険金をまず確保する必要があるのですよ。話を戻しますが、もちろん経済的事情の他、戦略的に和解に持ち込むケースもあるでしょう。例えば障害と既往症の関連が強く素因減額で不利になりそうなケース、または自賠責の後遺障害認定でかなり実情より有利な等級がついてしまったケース、これら白黒つける審議に耐えられないケースには和解が有効なオプションであることに変わりありません。しかしいくらなんでも交通事故裁判全体の80%超はないでしょう。多くのケースで和解による早期解決を立証努力しないこととすり替えていませんか?障害で苦しむ依頼者は、裁判で自分の窮状を認めて欲しいのではないですか?それに答えるのが弁護士であり、それをお手伝いするのが私たちではないでしょうか」
つづく