① 法的に保険会社の示談代行を可とした。

② 紛争センターのような仲裁機関を設置した。

③ 保険会社が顧問弁護士、協力弁護士を受け入れる。

 示談代行付き保険は3つの制度を引き換えとばかりに誕生しました。以降、保険会社による示談・支払いの一貫した解決が可能になり、それが当たり前になっていきました。一方、弁護士は保険会社の交渉でも解決に至らない案件を受け持つようになりました。

 時は流れ平成に入り、私は旧安田火災(現 損保ジャパン)に入社しました。一年目にサービスセンターに短期配属され、山のような事故時払いデータや統計を目にしました。そこで警察に届出された交通事故に対し、保険会社による示談解決は84%との数字をみました。このほとんどが保険会社 対 被害者の交渉で解決しています。このうち弁護士が介入する代理交渉はどのくらいの数字でしょうか?これについてはデータがありませんでしたが、多くは問題のある被害者に対し、保険会社側が雇う形が多かった印象です。

 被害者側に立つ弁護士が少ないのでは?その頃から長らく疑問に思っていました。

 ここ2~3年急激に被害者側にアプローチする弁護士が増えてきましたが、未だ弁護士に委任して解決を図ることは一般的ではないと思います。やはり圧倒的に「保険会社vs被害者」の直接交渉なのです。理由を考えました。

保険会社主導の解決

 あまりにも保険会社のシステムが優秀で、被害者は保険会社のペースで解決に誘導されます。人身担当者がついて病院への一括払い(病院に治療費を直接、精算してくれる)や、物損担当者がついて、さらに物損アジャスターが活躍(被害車両を見るため、足を運び検証)し、組織的に解決を図ります。特に任意保険の加入者同士の事故で、双方に車両保険や人身傷害特約が付いていれば、両社の保険会社によりスムーズに解決してしまいます。もちろんその方が円満でよい結果も多いと思います。しかし後遺障害を残すような事故の場合、保険会社の基準=少ない賠償額で円満解決ではあまりに被害者がかわいそうです。

保険会社寄り?の弁護士

 交通事故を扱う弁護士の多くは顧問、・協力弁護士出身です。そして保険会社との関係が切れても、世話になった保険会社と争う案件は受任しない、徹底的には争わない、このようなケースを未だに目にします。

 さらに問題なのは、保険会社から交通事故の指導?を受けたせいか、どうしても被害者寄りではない考えの先生に出くわします。例として、「むち打ちでは後遺障害が認められない」、「後遺障害の審査は事前認定で十分、被害者請求は無駄」、「交通事故裁判は和解前提、すぐ終わりにするのが普通」・・・洗脳でもされたのか?と疑うような、被害者の為に戦わない弁護士です。

 最近目立つのは弁護士費用特約を使う際、ついでに保険会社に紹介してもらった弁護士です。この紹介された弁護士の多くは協力弁護士で、普段は保険会社のために被害者と戦っています。そのせいか上記のような対応をされると被害者が不満になってきて、委任を解除するケースが多くなります。

紛争センターの存在を知らない

 平成23年の利用者はたったの8514人。余程のことがない限り利用されていません。特に軽傷事故や物損を除く、後遺障害の認定者から見ますと、年間約6~7万人の認定ですから10%前後です。あまりにも少ない数字に思えます。残りの90%から少ない例である弁護士の介入を除くとして、一体どれくらいの被害者が保険会社基準で示談してしまっていることでしょう。
 

 以上、保険会社の大活躍だけが印象に残ります。あまりにも保険会社の存在が浸透し、多くの弁護士は交通事故から遠ざけられてしまったのでしょうか?事実、数字が示しています。

 昭和48年に7000件を超えた交通事故損害賠償請求訴訟ですが、昭和49年3月に示談交渉つき保険が発売されるや、翌年には訴訟件数が1000件を切りました。以後示談は保険会社vs被害者本人 の構図が主流となったのです。つまり保険会社は、抜群の商品開発力で様々な保障・特約を作り上げ、弁護士から交通事故の経験則を奪い取りました。訴訟の経験がなければ弁護士も妥協的な示談に走りがちとなり、立証・交渉能力が伸びません。
 また保険会社は弁護士を顧問・協力弁護士として手元に置いて、「保険会社に刃向う弁護士を増やさないようにしている?」状態を続けています。
 近年、訴訟件数は5000件超に回復していますが、
全国30000人を超える弁護士の数からすると、めったに交通事故訴訟は扱わない?といった結果になります。

 これが現在の日本の交通事故業界の姿なのです。

 この現況から「交通事故業務を保険会社から弁護士の手に取り戻す」ことが必要との考えに至りました。
 
 次回からはいよいよまとめに入ります。