ゴルフ場を例に説明します。ゴルフ場側は、ゴルフ場の利用者さん向けに、賠償保険(施設賠償責任保険)をかけて、利用者さんに(ゴルフ場の責任で)損害を与えた場合に備えます。さらに、傷害保険(施設利用者の傷害保険)を、ゴルフ場が掛金を負担して付保していることがあります。つまり、二重に保険をかけていることになります。
ただし、双方の保険の性質は違います。 ○ 賠償保険・・・実際にかかった治療費はじめ実費と、慰謝料・逸失利益などを支払います。ただし、被害者の落ち度も勘案して、その過失を減額をします。慰謝料や逸失利益は保険会社の基準額があるものの、多くの場合、被害者とゴルフ場側の交渉の末、示談成立後(裁判の場合はその結果を受けて)支払います。 ○ 傷害保険・・・死亡・後遺障害、入院、通院、手術などの項目別に、あらかじめ「死亡で○○円、1日いくら」などと、契約時に保険金が決められています。過失減額などはありません。 なぜ、補償が被る、両方を契約するのでしょうか? 実は、この質問は弁護士からよく受けるのです。 理由は、保険会社の気持ちに立つ必要があります。 保険会社としては、「支払い金額が決まっている」傷害保険の方が、手続きが楽です。とくに、通院数日などの軽傷の場合、治療費の領収書を提出してもらう、あるいは申告書に通院日を記載頂くだけで、査定は終了します。およそ、事故は軽傷が大多数です。スピード処理が求めらています。
対して、重傷、ましてや死亡などが起きれば、傷害保険の定額(死亡1000万円で契約したら、当然に1000万円)で、「決まった金額ですので」と言って支払っても、被害者や遺族が納得するとは限りません。さらに、被害者の落ち度も厳しくみる必要があります。そこで、賠償保険を使うことになります。現状、企業の賠償保険では、自動車保険の対人賠償のような示談交渉サービスはありません。多くは、ゴルフ場が自ら、被害者と交渉します。まとまらなければ、弁護士に委任することになります。この訴訟費用などは賠償保険ででることがありますので。 つまり、事故の規模や内容から、使い分けや併用をしているのです。重傷者や死亡の場合は、両方の保険から支払います。軽傷では、施設賠償責任保険の存在を知らせることなく、なるべく施設賠償を使わないように進めています。賠償保険は必ずしも支払う義務はありません。この保険は、その性質上、被害者の請求に応じて発動するものです。何より、保険金の金額が決まっていないと、できるだけ高額を求めるであろう被害者との交渉が伴うので面倒です。穏便に、1日いくらが決まった保険支払いで納得してもらいたいのです。 このような運用が、保険会社にとって都合が良いのです。弁護士は、何故、両方の保険をかけているのか、その合理性に疑問を持ちます。事故の大量処理に追われる保険会社としては、処理スピードや支払抑制につながる、使い分け・併用が便利なのです。扱う代理店さんにとっても、比較的、掛金の安い賠償保険だけではなく、傷害保険の手数料も入るので歓迎です。 これは、企業保険のあるあるです。弁護士先生も、対企業の賠償問題を受任する際、保険会社の思惑を知る必要があると思います。ゴルフ場側は、最初から「施設賠償責任保険がありますので、それでお支払いします」とは、言わないものです。