頭蓋骨の骨折も最後です。側頭骨骨折(迷路骨折)を解説します。軽度の亀裂骨折は未経験ですが、弊所の受任例では重傷例に連なりました。当然に緊急手術の対応です。脳実質への損傷もあり、高次脳機能障害も3級~5級の重度な障害を残しています。 (1)病態
側頭骨は、下のイラストの青線で囲まれた部分、耳の周りにある骨で、脳を保護している頭蓋骨の一部です。側頭骨は、大きくは、上部の鱗状部と下部の錐体部の2つに分類されています。
交通事故による直接の打撃では、耳介の上の部分、鱗状部の縦方向の亀裂骨折が多く、この部位の縦骨折では、大きな障害を残すことはありません。しかし、後頭部からの衝撃により、錐体部を横方向に骨折すると、内耳や顔面神経を損傷することになり、オペが実施されたとしても、治癒は困難であり、確実に後遺障害を残します。
側頭骨骨折の内、骨折線が迷路骨包を横切るものは、迷路骨折とも呼ばれています。 (2)症状
錐体部は、頭蓋の内側に入りこんでいて、中耳や内耳、顔面神経などを保護しています。錐体内部には、内耳・内耳道が走行しており、この部位を骨折すると、感音性難聴やめまいの症状が出現し、また、錐体部を構成する鼓室骨、錐体骨、乳様突起に囲まれた形で中耳があり、外耳道と耳管で外へ通じているのですが、耳小骨の離断や鼓膜の損傷・中耳腔ヘの出血により伝音性難聴をきたすことも十分に予想されます。聞こえが悪いときは、骨折が中耳におよんで、鼓膜が破れ、耳小骨が損傷していることが予想され、耳鳴り、めまいを合併していると、内耳も障害されていることを示唆しています。
顔面神経は、脳を出てから側頭骨、耳骨の中を走行し、骨から外に出ると、耳下腺の中で眼、鼻、口と唇に向かう3つの枝に分かれて、それぞれの筋肉に分布しています。顔面神経麻痺は、通常、顔面のどちらか半分に起こります。