相手保険会社の担当者だって、間違った説明をしてしまうことはあります。 人間だもの それは仕方ありません。被害者さん達は、「保険金を渋る為にウソをつかれた!」などと憤慨しますが、たいていは悪意なく単に間違えた、でまかせを言った程度のことです。なぜなら、例は少ないですが、逆に間違って支払いすぎること(過払い)もあるからです。そもそも、交渉事ですから、何事も鵜呑みににせず、自分でも調べることが基本と思います。 言った言わないには録音です! しかし、あるケースでは、間違えましたでは済まされない、大変なことでした。概要を説明します(個人情報なので脚色しています)。 事故で遷延性意識障害に陥った被害者さんがおりました。事故後9か月、意識が戻らない。医師も「奇跡でも起きなければ・・」です。このまま常時介護であれば、介護費用がかさむので、死亡より後遺障害の賠償金が高くなります。亡くなったらお金がかかりませんので、このようなケースは珍しくありません。
もう9か月、何はともあれ、最初の1手は自賠責保険金の確保です。そこで、相談を受けた代理店さんは、相手保険会社に「先に自賠責の請求をしたい」旨を伝えました。すると、担当者は、「自賠責へ請求するには(意識不明状態が続いているので)本人の意思確認ができないので、法定後見人を立てて下さい」との説明。かなりの面倒が家族に圧し掛かります。
そこで、その代理店さんから秋葉に相談が入りました。私はまず、「後見人の選定は家庭裁判所に申し立てるとして、それを見越した、重傷案件に秀でた弁護士を選任します。賠償交渉は裁判前提、自身の過失分は併せてご家族加入の人身傷害保険に請求します。まずは、自賠責に被害者請求して、別表Ⅰの1級とその保険金4000万円を確保しましょう」と、いつものように、解決へのロードマップを示しました。
ここで、先の担当者と秋葉で食い違うのは、自賠責保険の請求は後見人じゃないとできないか、ご家族でもできるか、です。後見人の設定にはそれなりに時間もかかります。弁護士を雇うことや当面の介護負担を考えると、4000万円は是非とも先取りしたいところです。そこで、代理店さんは、秋葉を信じて、ご家族の署名・印で被害者請求をしました。
もちろん、念書の追加提出を済ませて保険金がおりました。しかし、なんと、それを待つように、被害者さんは1か月後に亡くなってしまいました。高齢で事故のダメージを負い、意識障害が続けば、当然に予想すべきことかもしれません。
ここで、先の担当者の説明を思い出して下さい。後見人の設定で3か月程度を浪費してたら・・請求前に死亡となってしまいます。自賠責への請求は後遺障害ではなく、死亡となるのです。恐らく、その死亡保険金額は3000万円が限度ですが、高齢から逸失利益が伸びず2400万円位と思います。対して、生きてるうちに介護費用を含む別表1-1級の認定を受けた保険金は、ほぼ4000万円に達します。認定後に死亡したからと言って、「差額1600万円を返せ!」とは言われません。症状固定日で後遺障害を判断するのが自賠責のルールですから。
すると、死亡の場合の賠償請求で勝負するよりも、低い自賠責規準であろうと後遺障害保険金が有利、まして過失減額ない4000万円の確保で解決になること濃厚です。もし、相手担当者の言うことを信じていたら、少なくとも1600万円以上の損失、これは交通事故の2次被害です。仮に、それを任意保険会社に咎めても、「担当者の・・勉強不足の間違いで・・すみません」とは言うでしょうが、何ら責任を負うことはしませんし、責任を負うべき罪にもなりません。すべては、被害者家族の不運で済まされます。 このケースは極端ですが、交通事故の世界は間違いのオンパレードです。保険会社だけではなく、警察も医師も弁護士も、お役所もすべて、間違った説明をする可能性があることを肝に銘じるべきです。被害者さん達も、正しい説明と判断するためにも、勉強しなければならないのです。