【事案】
自転車で道路を横断中、自動車と衝突、救急搬送された。診断名は、頭蓋骨陥没骨折、脳挫傷、急性硬膜下血腫、くも膜下出血。脳出血は止まり、安定をみせるも嚥下障害があり、胃ろう(胃から管を通して栄養接収する)造設となる。
その後、体力の回復に従い、ひどいせん妄(脳のダメージで興奮状態となり、暴れや暴言)を発症した。
【問題点】
せん妄から、暴言、乱暴、破壊行動があり、病院を追い立てられるように退院、転院先のリハビリ病院でも異常行動が続いた。医師からは、事故前からの認知症状が急進行したと認識されていれた。その後、急激に体力が低下、事故から半年を待たず、亡くなってしまった。診断名は肺炎による心不全だが、事故との因果関係なく「老衰」と診断された。
家族は「死亡は事故によるもの」と主張し、相手保険会社と対立、弁護士に依頼した。受任した弁護士は自賠責保険に死亡保険金の請求を試みるも、非該当の結果。これを受けて、弁護士から秋葉事務所へ相談となった。弊所は生前に「高次脳機能障害になった」との観点から、後遺障害での再請求を計画した。
つまり、既に亡くなった被害者さんに対して、”事故から亡くなるまでの6ヶ月間の後遺障害”を立証するミッションとなった。 【立証ポイント】
まず、すべての病院のカルテの検証から始めた。経験上、暴れるなど問題のある患者に対して、病院の目は冷たく非協力的となる。本件でも病院の協力を取り付ける苦労が続いた。とくに、診断書の記載について、当時の主治医に面談を申し入れたが、医師だけではなく病院スタッフ同席のもと、録音下での面談となった。これは、死亡事案であるゆえ、病院側が医療過誤の指摘を警戒しての緊張であったよう。懇切丁寧に事情を説明したところ、当方の目的を理解した病院側はほっとしたようだった。 続いて、緊張が解けた医師に、生前の記録を元に後遺障害診断書類の記載を依頼した。協力的に転じた医師は、限られた治療記録から、ギリギリの診断書を作成していただいた。
さらに、数百ページからなるカルテから有用な情報を抜粋したが、高次脳機能障害の等級を確定させるほどの客観的な情報は乏しく、神経心理学検査もわずかに長谷川式スケールのみ。十分なリハビリ・検査を経ずに、数ヶ月で亡くなったのだから当然である。かつて、これほどタイムマシンが欲しかったことはない。情報の空隙を埋めるべく、看護記録や本人の破壊した設備の見積もりなど、あらゆる記録を検証した。最後に家族からの聴取を十分に分析、日常生活状況報告書とその別紙を作成して、限界まで審査書類を膨らませた。
申請後、待つこと5ヶ月、審査上不十分であろう状態から、自賠責は介護を認めた2級を認定、望みうる最高の等級がでた。ようやく、ご家族の気持ちを形にすることができた。死亡との因果関係は別として、これで故人が事故で負った障害の苦しみを主張できる。
(平成29年5月)