私達の仕事の主目的は後遺症の残った被害者さんに、間違いの無い後遺障害等級の認定をさせることです。
そのような方針でずっとやってまいりました。したがって、主に相談の対象は後遺症の残る重傷者となります。それはこれからも変わらないでしょう。しかし、先週末の東京相談会は盛況で、後遺障害の対象ではなくとも、入通院期間の慰謝料や休業損害を巡った示談交渉を要望する被害者さんが多くみられました。 当然ですが、人身事故被害者の96%は後遺障害など残らない軽傷者です。後遺障害の対象は4%程度なのです。つまり、後遺障害を残す被害者さんは少ない。では、後遺障害の対象とならない被害者さんに対して、6ヶ月程の治療期間の慰謝料を巡る交渉は必要でしょうか?
検証してみましょう。骨折の無い、6ヶ月の通院で示談の場合、保険会社の提示60~70万円に対して、弁護士が請求する裁判基準は80~100万円、その差は20~30万円程度といえます。仮に弁護士に依頼して20~30万円の報酬を払ったら、その差額は0円になってしまいます。下手をすると経費が別途かさみ、費用倒れの恐れもあります。
したがって、軽傷者への有償対応は積極的とはなりません。以前、交通事故を主業とする他事務所さんいくつかとお話をする機会をもちました。「そもそも後遺障害の対象者は少ないので、軽傷者さんでもできるだけ募って受任する」ような方針を聞きました。マメなことだと感心する一方、商売に徹しているなぁとも思いました。以前もこのHPで語ったように軽傷者は、保険会社の提示額であっても、それほど損はなく、救済対象から遠いと思っているからです。
それでも、弁護士費用特約(以後、弁特)の存在が20~30万円の差を埋めてしまうのです。弁特で報酬が支払われるのであれば、差額はそのまま被害者さんの経済的利益になります。「弁特があるから・・」とのような軽薄な仕事はしませんが、軽傷といえど、上手に示談交渉ができない、交渉によっては大幅に増額する被害者さんも少なからず存在します。これは弁護士の仕事として、一定数はお助けする余地があります。誤解のなきように言いますと、それは弁護士以外の、例えば自賠責保険手続きをする行政書士の仕事ではありません。その点、利益に走った無駄な自賠責申請などは慎むべきでしょう。
まとめますと、軽傷者さんは保険会社との直接交渉で解決させることが自然です。その内一定数、代理交渉が必要な被害者さんは仕事の対象となります。そこには被害者さんの事情を斟酌すべきで、その受任判断には倫理感が必要となります。費用対効果だけで語ってはいけないように思います。
この硬派な姿勢を堅持しなけければ、交通事故業務は(交通事故被害と言う)人の弱みに付込んだ、単なる金儲けに成り下がるでしょう。