ある2人が横断歩道を歩行中に、信号無視した運転手がその歩行者をはねてしまったとします。歩行者のうちの一人(Aさん)は、腕を骨折しました。もう一方の歩行者(Bさん)は、幸い骨折はしませんでしたが、肩を痛めてしまいました。
AさんもBさんも共に腕が上がらなくなったと主張しております。 関節可動域制限の等級はAさんとBさんのどちらに認められるのでしょうか。
交通事故の相談者の中には、肩や肘、膝や足首等の関節が交通事故以前よりも動かなくなったことについて相談される方が多くおります。
確かに、交通事故による衝撃で骨や筋肉、靭帯が損傷する場合があります。その際、関節が動かなくなるほどのダメージを負う被害者をこれまで何人も見てきました。しかし、その関節可動域の制限が後遺症(後遺障害)として認められるか否かの判断は傷病名や被害者の主張のみを見たり聞いたりしただけではできません。
被害者のお話しを信じていないわけではありませんが、物事には「常識」というものがあります。自賠責の調査事務所に限らず、弁護士やその他士業、保険会社、その他の方々が何かを判断する際の寄る辺となる「常識」が存在しております。交通事故の怪我も同じです。
骨折をするほどの衝撃を身体に受けた場合、治療を始めたときには関節が動かなくなっても不思議ではありません。しかし、その原因は骨折したことなのでしょうか、それとも単純に痛みにあるのでしょうか。それらは画像で判断する必要があります。
例えば、上記Aさんの画像(XPやCT)を確認したところ、上腕骨(二の腕の部分)の骨幹部(骨の真ん中)が折れていることがわかったとします。事故から半年後、Drが再び画像を確認してみると骨が癒合しており、特に偽関節や骨片が残っていないことがわかりました。それでも腕が上がらないとAさんは訴えていたとしても、これだけでは関節可動域の制限による等級はほぼ認められないでしょう。
何故なら、骨が折れた箇所が、関節の動きを制御する部分やそれに近い所ではなく、二の腕の骨の真ん中が折れたからです。この部分が折れたとしたら、痛みがしばらく残ってもおかしくはありません。ただし、骨が綺麗にくっついており、骨や筋肉が問題なければ、腕は「常識」的にみれば動くはずです。このような場合、可動域制限では後遺症(後遺障害)は認められず、疼痛等によって後遺症(後遺障害)が認められる可能性があります(上記のようにきれいに骨が癒合していれば、等級は14級9号が限界です)。
一方で、Bさんの画像(XPやMRI)を確認したところ、肩の腱板を損傷していることがわかりました。Aさんの場合と異なり、関節部分の怪我です。事故から半年後、Drが再び画像を確認してみると肩腱板損傷の所見が残存しており、かつ、Bさんは腕が上がらないと訴えております。このような場合、後遺症(後遺障害)の等級は所見があるので12級13号が認められる可能性がありますが、それ以上に可動域制限(12級6号)でも等級が認められそうです。下図のように断裂が明白なケースです。 しかし、腱板損傷があったからといって、確実に可動域制限が起きるわけではありません。例えば、Bさんの肩腱板損傷の度合いが、完全に断裂しているレベルであった場合、腕が上がらなくなっても不思議ではありません。一方で、損傷が数ミリであるレベルの場合、痛みは確かに認められそうですが、実際に腕が上がらないレベルまでの怪我とは言いにくいことがあります。
以上から、関節可動域については、骨折しているから、靭帯損傷をしているから等傷病名の判断だけではなく、どの部位の怪我なのか、怪我の度合いはどうなのかを画像上で総合的に判断し、常識的に関節が動かなくても無理がなければならないのです。可動域制限で申請される際にはご注意ください。
また、過去に可動域で等級がとれると判断して受任した結果、認められなかった弁護士を見たことがあります。弁護士やその他士業者に依頼する際には、なるべく画像を見ることができる事務所であるのかどうかを確認してみてください。