今月、行政書士の交通事故業務について、その線引きを示す一つの判断が届きました。
大阪高裁平成26年6月12日判決(判例時報2252号の61頁)
この裁判は行政書士が依頼者に対して報酬を請求したところ、「その業務が弁護士法72条に違反するから無効」と依頼者が支払いを拒否、対して行政書士が報酬の請求訴訟を起こしたものです。結果は、行政書士の訴えが退けられたのですが、その過程で業務内容の適否にいくつかの判断がされました。
有償で賠償交渉に関わる事が弁護士法72条違反であることは明白として、この高裁判決では興味深い論点が示されました。行政書士の交通事故業務でグレーゾーンであった業務が弁護士法72条に違反するか否かについて・・・ ① 「自賠責保険の請求業務」は(本件一連の契約内容・業務は全体として非弁行為だから、自賠責部分のみ適法を認めず)法律事務とされた ② 交通事故に関する事務は「将来、紛争が予想されれば法律事務となる」 ③ 報酬設定で経済的利益の○%は72条違反の根拠 まず、周囲の弁護士によると、やや驚きだったのは「自賠責保険の請求までは行政書士も可能」と解釈していたところ、①で否定された点です。今までも、この違法・適法の線引きについて弁護士間でも意見が分かれていました。
しかし、本件の場合は前提があります・・・本件行政書士は賠償請求行為まで包括的に契約していいました。1審で非弁行為を断じられた後、控訴審になって「少なくとも自賠責保険の業務までは適法と認められるべき、だからそこまでの報酬は認めて」との、未練がましい主張を追加して臨んだのです。高裁判事は「契約全体として、法律事務との線引きができようもないのでダメ!」と断じたに過ぎません。 その後、サイトで拝見したいくつかの弁護士はこの判例を受けて、この行政書士による自賠責保険の請求で作成した「有利な等級を得るために必要な事実や法的判断を含む意見が記載されている文章」は、「一般の法律事件に関して法律事務を取り扱う過程で作成されたもの」だから、
”行政書士の行う自賠責保険業務は非弁行為となった”、と断定しています。 やや論理の飛躍に思えます。これは、”この行政書士の「契約内容・業務全般が非弁行為と認定済」との前提があってこその見解ではないでしょうか。 限定的に解釈すれば、「自賠責保険業務自体、あるいは自賠責保険業務のすべてにおいて、その違法性について直接的な判断まではしていない」、と秋葉は読み取ります。 本判例は、読み手の立場(職域確保の弁護士か、自賠責業務に進出した行政書士か)によって解釈が分かれるようです。しかしながら、HPを見回すと、前者:弁護士の意見はいくつも目にしますが、肝心の行政書士は私くらいしか見当たりません。自らの業務の根幹に関わる重大事ながら、行政書士側はぐうの音も出ないのでしょうか・・・実に寂しい限りです。 今後、自賠責保険の請求業務が真っ向から争われる裁判が起これば、違う判決も出る可能性がありますので、予断を許さないと思います。自賠責業務に関する事務の線引きについて議論は続きそうですが、少なくとも自賠責保険の被害者請求(の代理請求≒代理行為)を行っている行政書士は、この判例から非弁行為(の疑い)を指摘される宿命を負ったと思います。 ②について、交通事故はほとんどのケースで紛争が予想されます。紛争が予想される事務をすべて72条違反とすれば線の引きようのない解釈となります。例えば離婚業務で有責配偶者の証拠(ラブホテルの前で写真を撮る等)を収集、レポートを作成した探偵業務は紛争が予想される法律事務に当たってしまい、探偵さんは非弁者となってしまいます。これも絶対的な解釈までは及ばず、調査業務か法律事務か、個別に判断が求められると思います。 ③は、「報酬自由の原則<72条違反を構成する根拠?」とかなり乱暴な解釈と思います。これはこの行政書士のあやしい?業務内容から、その違法性の根拠を示す報酬計算とされました。やはり個別判断に留まるように思います。 訴えを起こしたのは、書面による賠償交渉を業務としたバリバリの赤本書士です。
(赤(青)本書士とは・・・賠償交渉を被害者の裏に回って書面作成によりフォロー、「賠償交渉はしていません、書面作成しただけですよ」と、”とんち”で72条違反を回避したつもりの行政書士)この赤本書士に対して一罰百戒、その主張すべてにNOが突きつけられました。最初から堂々と賠償交渉と代理行為を契約し、業務遂行していたのですから、結局、何を言っても説得力がなかったのでしょう。本裁判は依頼者と報酬額を巡るトラブルが発端です。少なくとも依頼者の納得が得られない業務と報酬内容なのでしょう。関西の行政書士・弁護士から聞くと、この先生は平素から疑義・問題のある業務と報酬請求をしており、懲戒の申立ても受けているようです。行政書士の性質によっては、つまり、72条に遵法、真面目な先生であったら・・もっと慎重な議論が展開されたと思います。
これが一民事事件に対する個別判断であるとしても、判例が一つの規範であることは変わりません。業界全体はもちろん、交通事故に係る行政書士は厳粛に受け止めるべきでしょう。今後、弁護士・行政書士の両会が業際問題について申し合わせを行い、グレーゾーンの線引きが進むことを望みます。
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