交通事故の相談で「相手の保険会社に弁護士が付いたのですが、どうすれば良いでしょうか?」が少なくありません。これは加害者側の保険会社と被害者が交渉を進めていく中で、相手の保険会社担当者がブチ切れて弁護士対応としたケースです。
まず、被害者の元に弁護士名のずらーっと並んだ文章が届きます。「今後の交渉は弊所が担当します」と書かれています。被害者はびっくり、今後は加害者や相手の保険会社ではなく、弁護士と交渉しなければなりません。この弁護士に治療費の延長や、自動車の格落ち代金を請求しても、今までの担当者よりさらに冷たい返答が返ってきます。
それでも強交渉を続ければ、弁護士から「法廷で会いましょう」と返答がきます。これは「債務不存在確認訴訟」と言って、「これ以上を支払ういわれはない!」との訴えで、「払わないで良い」ことを裁判で決めましょうと逆に訴えられている状態です。ここに至り被害者は崖っぷちに追い詰められます。選択は裁判で争うか相手の主張を飲むかになります。
債務不存在確認訴訟をされるまでもなく、保険会社担当者から弁護士に交渉相手が代わった状態で泣きついてこられる被害者さんに対して、被害者側の相談を受ける弁護士も苦慮します。なぜなら争点となっている請求の多くが、長期にわたる治療費や過大な物損の請求であったり、どうも被害者の主張に無理があるようなケースが多いのです。本来、被害者側の請求が常識的な金額であれば、相手保険会社は弁護士を立ててまで拒まず、少ないながらそれなりの金額を提示してきます。普通に交渉の余地があります。
もちろん慰謝料や逸失利益など保険会社の基準額は一様に少ないのですが、これを争う場合、保険会社が弁護士を立てるのではなく、被害者側が弁護士を立てて交渉することが自然な流れです。
つまり、保険会社が先んじて弁護士を立てるケースは、圧倒的に被害者側の請求内容、交渉態度に問題があると言えます。以下が代表的な例です。
1、乱暴・非紳士的な口調、担当者を罵倒
2、加害者に直接連絡を取る、怖い人が登場する、人間性に問題のある被害者
3、打撲・捻挫の類で長期間、通院を止めない。
4、どう考えても事故の症状ではなく、既往症(元々の病気・けが)や心身症(心の病)での通院が続く。
5、判例や常識であり得ないような自動車の格落ち代、自営業者が過少申告した結果の休業損害額、慰謝料の過大請求。
6、詐病(けがを装う)、詐欺(実は高額の時計が事故で壊れていた)が疑われる怪しい請求。 最近は、10年前と違って弁護士が増えた影響か、保険会社はわりと簡単に弁護士を入れるようになってきました。それでも、横暴に弁護士を入れるケースは少なく、被害者側の問題が多いようです。確かに高圧的で無礼な対応をする保険担当者もいますが、担当者も人間ですので感情があります。被害者の出方によって態度を変えるでしょう。冷静・紳士的な被害者には相応の対応をしますが、被害者感情むき出しで強硬な口調には、合わせ鏡の対応となるでしょう。
根底にある被害者側の大きな思い違いは、「被害者なのだから、当然に補償されるべき」です。これは高い確率で落としたお財布が届く、相互信用社会である日本の特殊な現象からでる感情です。正しい認識は「被害者となった、これから大変だ」という現実です。誰も被害者の言いなりに補償してくれる者などいません。被害者は大変な交渉の末に補償を勝ち取らなければならない身なのです。資本主義社会では、お金を請求する側が弱いに決まっています。
その点、保険会社は便利な機関です。加害者に代わって、少ないとは言え、一定の補償を実行してくれます。その保険会社・担当者に向って、「上司を出せ!」「担当者を替えろ!」「本社に苦情を言い立ててやる」「加害者と直接話をするから」・・これらすべて無駄です。そんな恫喝交渉で賠償額が上がることはなく、担当者の逆恨みを買うだけ、より自身が不利になる相手弁護士の登場となるだけです。つまり、弁護士対応とされた被害者は”交渉の失敗”を自覚すべきと思います。 さらに、こちらも弁護士を立てようが、1~6例のような被害者を助けたい弁護士は少ないはずです。引き受けてくれる弁護士を探すのには苦労します。 被害者は保険会社担当者の挑発?に乗ることなく、クールに戦わねばなりません。被害者の目的は、自身の損害に見合った補償の獲得、実利ある解決のはずです。証拠を揃えて提出、理路整然と交渉を進めなければなりません。保険会社とは、被害者にとって”上手に利用すべき存在”なのです。とにかく、ケンカとなる前にご相談にいらして下さい。 繰り返しますが、保険会社が弁護士を立てるのは「もう相手にならん」とさじを投げられたのです。自らの立場を追い詰めたのは被害者自身なのです。